ボルデテラ(Bordetella bronchiseptica)感染症とは
ボルデテラ(Bordetella bronchiseptica)は呼吸器感染症であるケンネルコフの代表的な病原体です。
潜伏期間は2−6日と言われており、非常に強い感染力を持ちます。
鼻咽頭〜喉頭〜気管〜気管支まで広範囲の気道で障害を起こすことがあり、
症状は急性の咳を主体に、咽頭液の喀出(白い泡ぶくを吐き出す、嘔吐とは異なる)、逆くしゃみ、呼吸困難などを引き起こすことがあります。
ある日突然、咳が生じ始め、重症例では一日中咳が続くため眠れないこともあります。
感染源
感染源を特定することは難しいですが、新しく子犬、子猫を迎えた直後や、犬の保育園、ペットホテル後などに
症状を発現するケースが多いように感じます。
直接的な因果関係は不明ですが、子猫を飼い始めた家庭の犬で発症したケースも経験したことがあります。
治療法
ほとんどの成犬は自己治癒力で改善すると言われていますが、症状が強く治療介入が必要となるケースが多いように感じています。
治療は抗生剤の投与が主体となります。
動物では第一選択肢としてビブラマイシンが推奨されています2。
ネブライザー療法によるゲンタマイシン投与も有効であると報告されており3、
抗生剤以外の薬液も混ぜて実施することで、咳以外の鼻水や逆くしゃみなどの症状を緩和させることが期待できます。
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抗生剤を投与しても改善しない場合には適切な抗生剤を調べるために呼吸器の精査が必要となります。
通常、適切な抗生剤が判明すれば、その抗生剤の投与によって
多くは7-10日ほどで症状緩和が認められ、少なくとも2−4週間以内には症状は改善します。
しかし、
Bordetella bronchisepticaは動物の体内に長期間とどまることがあり(最大で14週間)、その期間では治療後も再発の可能性があります。
また、感染力が強いため完治するまでは他の動物との接触を極力避けなければなりません。
*人の百日咳の原因菌はBordetella属(Bordetella pertussisまたはparapertussis)です。
ワクチン
ボルデテラ感染症に対してはワクチン接種も存在します。
ワクチンの効果を調べた論文報告がありました。
Effect of vaccination on experimental infection with Bordetella bronchiseptica in dogs.1
<要約>
- 筋肉注射または鼻腔内投与によるボルデテラワクチンは、対照群(ワクチン非接種群)に比べ、実験的なボルデテラ感染後の臨床症状が少なかった。
- 対照群では咳、活動性低下、食欲低下、発熱を認めた。
- 筋肉注射または鼻腔内投与の単独よりも、両方投与の方がより呼吸器症状が少なかった。
上記情報からボルデテラ感染症に対してはワクチン接種がある程度有効なようです。
私は使用経験がありませんが、国内で可能なボルデテラワクチンは鼻腔内投与のものがあります。
ボルデテラワクチンはノンコワワクチンではあり
(全頭において投与は推奨されておらず、必要に応じて投与すべきとされるワクチン)、
飼い主または獣医師の判断で投与を検討すべきワクチンです。
大勢の犬と接触する機会の多い犬には接種を検討しても良いかもしれません。
おわりに
咳の原因は多岐にわたります。
その中でもBordetella bronchisepticaなどの感染症は適切な治療をすることで予後が良好な疾患ですので、
まずはしっかりと診断をしてあげたいものです。
咳でお困りの時には一度どうぶつ呼吸器クリニックへご相談ください。
参考文献
- Ellis J. A., Haines D. M., West K. H. et al. (2001) Effect of vaccination on experimental infection with Bordetella bronchiseptica in dogs. J Am Vet Med Assoc218,367-375.
- Lappin M. R., Blondeau J., Boothe D. et al. (2017) Antimicrobial use Guidelines for Treatment of Respiratory Tract Disease in Dogs and Cats: Antimicrobial Guidelines Working Group of the International Society for Companion Animal Infectious Diseases. J Vet Intern Med31,279-294.
- Morgane Canonne A., Roels E., Menard M. et al. (2020) Clinical response to 2 protocols of aerosolized gentamicin in 46 dogs with Bordetella bronchiseptica infection (2012-2018). J Vet Intern Med.